久居斎奉閣
家族葬
~マイクを手に、空へ~
ご相談のためにお部屋へ伺った際、まず目に飛び込んできたのは、お布団の上に美しく飾られた鮮やかな紫のドレスでした。
娘様のお話によると、それは富美子様が毎年楽しみにされていたカラオケ発表会のためのステージ衣装。三重県の総合文化センターで、堂々と歌い上げるその姿が目に浮かびました。
昔から歌が大好きだった富美子様。50歳を過ぎてからは週1回のボイストレーニング、さらに週に3〜4回のカラオケにも通われていたそうです。
ラジカセで録音し、帰宅後にご自身でチェック。マーカーでラインを引いた楽譜をピアノでも確認し、熱心に練習されていました。
式場ではその大切な楽譜を展示し、多くの方にご覧いただきました。
「向こうでも練習してるかな…」と娘様がつぶやかれたその言葉が、胸に響きました。学生時代から始めたバレーボールは、ママさんバレーや、ねんリンピックでも続けられていました。
富美子様がバレーボールに出かける際によくかぶっていた帽子は、今ではお孫様のお気に入りとなり、大切に受け継いでいるそうです。
お葬式の前に、私はご家族様へいくつかのご提案をさせていただきました。
まず、故人様のご愛用だったドレスと、バレーボールにまつわるパネルや写真などの思い出の品もぜひお持ちくださいとお伝えしました。そして、遺影写真についてもご相談をいただいた際には、「特別な加工などはせず、自然なお姿のままで仕上げてみてはいかがでしょうか。故人様がカラオケを楽しまれている時のお写真など、そのままの笑顔が一番素敵だと思います」とお伝えしました。
ご家族が持参されたお写真には、どれもマイクを持ち、楽しそうに歌っている富美子様の姿。
好きだったお菓子もご家族がそっと手向けられました。
祭壇は、富美子様の大好きなカラオケを歌っている時の写真、仲良しのご家族の写真、そしてこの時期にぴったりな桜のお棺で飾りつけました。
娘様が式場に入った際、「発表会の楽屋みたい」とおっしゃったのが印象的でした。
紫色のドレスに身を包んだ富美子様。その輝きはお孫様、ひ孫様の涙を誘いました。
料理をしているときも、掃除をしているときも…富美子様は一日中歌を流しながら口ずさんでいたそうです。
「歌詞がわからなくても、何回も聞いたら自然と覚えるんです」と喪主様が笑顔で語ってくださいました。
お別れの前には、ご家族で富美子様を囲み、祭壇の前で記念のお写真を撮らせていただきました。
中央には、マイクを手に楽しそうに歌う富美子様の写真。
きっと天国でも、同じように歌声を響かせていることでしょう。
富美子様との最期の時間、その一部をお手伝いできたことを心より光栄に思っております。
ご家族の想いがたくさん詰まった、あたたかなお別れの時間でした。
2025年4月18日 野本家様(担当:瀧本)