菰野斎奉閣
大好きな家族に見守られ…
故人様は、ご自身の手で製網会社を立ち上げられた実業家であり、仕事に情熱を注がれた方でした。もともとはお父様の会社に勤められていたそうですが、独立し、自らの道を切り拓かれました。「工場が自宅の隣だったので、何かあればすぐに呼びに行けて、何でもしてくれた」と話されるご家族の表情には、日常に根ざした深い感謝と寂しさがにじんでいました。
お酒と刺身をこよなく愛し、飲み会にもよく足を運ばれていたとのことで、その場の空気を明るくする、社交的で気さくなお人柄が伺えました。ご家族やご友人にとっては、ただの親や友人という枠を越えた「人との縁を紡ぐ中心」のような存在だったのではないでしょうか。
「自分の友人にも家族を会わせて、家族ぐるみの付き合いをしていた」「一人では居ることができない寂しがりやだったのかな……」と、ご家族様は少し寂しそうに語っておられました。故人様がいかに人との関わりを大切にされていたか、また、その絆の中で生きてこられたかが伝わってきました。
初めてのご葬儀ということもあり、ご家族様からは「何を準備したらよいかわからない」「今までは故人に任せていた」「これから少しずつ覚えていこうとしていた時だった」と不安の声も伺いました。そこで、「お好きだったもの、大切にされていたものはぜひお持ちいただき、お別れの時には棺に手向けましょう」とご提案しました。すると「いいんですか?ありがとうございます」と、とても喜んでくださいました。
お別れのひとときには、「KAGURU(かぐる)」というセレモニーも執り行われました。
KAGURUは、ソラの木の皮を使って作られた天然素材のアートフラワー「ソラフラワー」に、ラベンダーのアロマオイルを染み込ませ、香りで想いを届ける新しい形のお別れの品です。ラベンダーの優しい香りが会場に広がる中、参列されたご友人がKAGURUを手に、「本当にありがとうな。また飲みに行こうな!」と声をかけられた場面はとても印象的でした。香りとともに語られたその言葉からは、故人様の人望や、長年築かれてきた深い絆が静かに伝わってくるようでした。祈りを込めて手向けられたKAGURUの香りが会場を穏やかに包み、温かな空気の中で、故人様との最期のお別れの時間となりました。
担当として、故人様とご家族様の絆を見つめながら、そのお別れの場に立ち会えたことに、心から感謝しております。温かなご家族と、惜しみない想いに包まれたご葬儀は、私にとっても忘れられない時間となりました。H家の皆様、本当にありがとうございました。
2025年9月8日 H家様(担当:下田)