名張斎奉閣
故人と遺族の願いを結ぶ葬儀~温かな見送りと静かな旅立ち~
学校教諭として長年にわたり勤められた故人様は、中学校・小学校の現場で、常に生徒たちのことを第一に考える人生を歩まれてきました。家庭よりも学校を優先するほど、教職という仕事に強い誇りを持ち、子供たちを心から大切にされていたお姿が、周囲の皆様の心に深く刻まれています。
打ち合わせの中で私が「故人様の学校でのご様子はご存じですか?」とお尋ねすると、ご家族様は「家では学校のことは全く話をしなかった」「生活の中心は学校だった」「どんな教師であったのか知らない」と語られました。学校での姿をご家族にほとんど語られることのなかった故人様が、教壇に立つときは家庭とはまた違った真剣な面持ちで教職に身を捧げていたことがうかがえると、生徒たちとの関わりを何より大切にされていた、その誠実なお人柄が偲ばれました。
ご葬儀にあたってご家族様は、「家族のみで送ってほしい」という故人様の遺志を尊重しつつも、「本当にそれで良いのだろうか」という迷いや、長年お世話になった学校関係者の皆様へどのようにお知らせすべきかといったご不安を抱えておられました。
私はご希望を受け、無宗教での「一日葬」をご提案しました。葬儀当日はご家族だけで静かにお見送りいただき、前日には学校関係者の皆様が自由に参列できる「お別れの時間」を設けることをお話させていただきました。このプランに対しご家族様は、「このようなことができるとは思っていなかった」「故人の遺志と遺族の思いの両方を叶えていただけた」と、安堵と感謝のお言葉をくださいました。
前日の「お別れの時間」には、多くの教職員や教え子の方々が訪れ、式場には静かでありながらも温かな空気が流れていました。中でも中学校時代の教え子で現在高校生の方が、「優しく、何でも相談できる先生だった。卒業後も気にかけてくれて、食事にも誘っていただいた」「今の自分があるのは先生のおかげ」と語られた言葉は、故人様の人生がいかに多くの人の心に影響を与えていたかを物語っていました。
ご葬儀を終えた今、私は一人の教員として、また一人の人間としての故人様の深い情熱と、静かな優しさに胸を打たれています。ご家族様の不安を受けとめ、故人様と皆様の想いを結ぶかたちで送り出すことができたこと、心より感謝申し上げます。I家様、このたびは大切なお見送りに携わらせていただき、ありがとうございました。
2025年9月18日 I家様(担当:中子)