笹川斎奉閣
こだわりが紡いだ暮らしと人生
左官業を生業とし、ご自身の家の手すりも自らの手で道具を揃え、丁寧に設置された故人様。職人気質で、何事にも妥協を許さないこだわりの強さは、長年の仕事だけでなく日々の暮らしにも表れていたとのこと。手先が器用で、木彫仏を制作するのが趣味だったそうです。数年前に先立たれた奥様やご友人たちと、旅行して過ごされた日々は、きっとかけがえのない思い出として大切に心に残されていることと思います。
そんな故人様を偲びながら、ご家族様は「かなりこだわりが強い人だった」と懐かしそうに語られていました。食べ物などには明確な好みがあり、飲み物についても特定の銘柄やサイズにこだわっていたそうです。ご逝去の直前、言葉での会話が難しくなってからも、お気に入りのお茶を求めて紙にその名前を書かれたとのこと。その紙は、ご家族の大切な思い出として、メモリアルコーナーにそっと飾られていました。
お式に際し、ご家族様からは「故人の写真や好きだったものを色々と飾りたい」とのご希望がありました。そこで故人様が大切にされていた左官の道具などを飾るご提案をいたしました。賞状は、より見映えがするよう額に入れて展示することに。これに対してご家族様は「賞状が額に入って立派になった!」と喜ばれ、参列された方々もその展示をじっくりと眺めながら故人様との思い出話に花を咲かせておられました。
式の中で、読経を担当されたご住職からは「とても奥さんを大切にしていたよね」とのお言葉があり、会場には故人様の人生と愛情深さが自然とにじみ出ていたように感じられました。
このたびのご葬儀を通じて、改めて「その人らしさ」を表現する大切さを実感しました。こだわりの品々に囲まれ、あたたかな会話に包まれたお別れの時間は、参列された皆様にとっても心に残る穏やかな記憶として刻まれていたらと思います。この大切な節目に携わらせていただいたことに、心より感謝申し上げます。
2025年10月17日 A家様(担当:松永)