生桑斎奉閣
家族の絆を紡いだ裁縫
故人様は、洋裁学校で学ばれた知識と技術を生かし、生涯を通じて洋裁に親しまれた方でした。ご家族様によれば、喪主様が子どもの頃には、ご近所の方々を採寸し、その方専用の服を一着一着丁寧に仕立てていたとのこと。ご自宅ではいつもミシンの前に座り、布地と糸と向き合う姿が日常の風景だったそうです。その姿からは、暮らしの中で人と人とのつながりを大切にされていたことが感じられました。

ご家族様にとって故人様は、穏やかで静かな性格の持ち主で、ご主人様ととても仲が良く、常に後ろをついて歩いていたと伺いました。年に一度は必ず家族旅行へ出かけ、料理や家事の最中には鼻歌を口ずさむなど、家庭の中にあたたかな空気を運んでくれる存在だったそうです。
ご葬儀に際し、私は生前のお話を伺う中で、故人様のお人柄やお好きだったものを式の中に自然に取り入れたいと感じました。特にお好きだったという柿を、私からのお供えとして用意させていただきました。また、裁縫が得意だったことにちなんで、針と糸もお供えいたしました。これらのご提案に、ご家族様は「きっと母も喜んでくれていると思います」とおっしゃり、故人様への想いが伝わったようでした。

最後のお別れの際には、ご家族様から「お別れの際に一緒にお棺に入れて差し上げてください」とお伝えし、柿や糸を丁寧にお納めいただきました。その姿には、単なる「物」ではない、深い想いと感謝が込められていたように感じました。

ご葬儀を通じて、喪主様のお話からも、とてもあたたかく絆の深いご家族様であることがひしひしと伝わってまいりました。このようなご縁をいただき、大切なひとときを共に過ごさせていただけたことに、心より感謝申し上げます。
2025年11月2日 M家様(担当:伊藤)