伊賀斎奉閣
写真と家族を愛した人生~優しさに満ちたあたたかなご葬儀~
町の写真館を営む家業の三代目として生きてこられた故人様は、写真がフィルムからデジタルへと移り変わる激動の時代を乗り越えながら、常に“人”とのつながりを大切にされてきた方でした。カメラと車を愛し、特に高校時代の同級生との絆を何よりも大切にされていたとのこと。その絆は年月を経ても色あせることなく、ご自宅の写真館には数か月に一度、時には毎週のように旧友が集まり、笑顔が絶えなかったと伺いました。

ご家族にとって故人様は、「趣味に生きる、やりたいことは全力でやる人」。大工が直せなかった自宅の不具合を計算して修理されるほど器用な一面もお持ちだったそうです。そんな多才なご主人との思い出を語る奥様は、遺された道具を前に「どうしよう」と笑っておられました。長年カメラに縁がなかった奥様が、嫁いでから40年、助手として撮影に同行されるようになったことも、夫婦の深い信頼と歩みの証です。
ご家族の皆様は、通夜のあと「おかんは?」と、ひょこっと故人様が現れそうだと語られ、悲しみの中にもあたたかな笑いがあふれていました。公私共に歩まれたご夫婦の時間の尊さが、胸に沁みました。
ご葬儀では、いつもの出棺誘導の順序にアレンジを加えました。位牌は年長のお孫様、骨箱は小学校低学年のお孫様に、そして喪主様が大きな遺影をお持ちになる形に。なお、この遺影写真は、故人の奥様がご自身で撮影された一枚で、現像し、額縁に入れてお持ち込みになったものです。故人様を最も近くで見てきた奥様ならではの視点と愛情がこもった、こだわりの写真でした。さらに祭壇には、愛用のカメラ「Nikon D600」をお持ちいただくよう提案いたしました。また、故人様が大好きだったアイスクリームを4つご用意し、お孫様4人にお柩へ納めていただきました。ご家族は大変喜ばれ、特にアイスを手にしたお孫様の笑顔がとても印象的でした。

また、戒名について「まさに写真家らしい」とご家族が口をそろえられたことが忘れられません。ライティングと影の扱いが命と語られたご家族の言葉に、写真家としての誇りが垣間見えました。
参列者の方からは「アナログからデジタルに移り変わる時代を生きてきた。苦労したんやろうな」との声もあり、その言葉には、長年にわたるご活躍への敬意が込められていました。
ご家族の「大切な人を、心から想う気持ち」が随所に表れたご葬儀でした。
大切なお別れの場にご一緒させていただけたこと、ご家族様の深い想いに触れられたことに、心より感謝申し上げます。誠にありがとうございました。
2025年12月11日 S家様(担当:竹森)