白子斎奉閣
お父さんが育てたお米とぶどうで送る─心を込めたお葬式のかたち
故人様は、定年までお勤めを続けながら、長年にわたり農業にも情熱を注いでこられた方でした。
奥様を亡くされてからも、一人でしっかりと生活を整え、田畑を守り、お米やさまざまな作物を育てていらっしゃいました。
真面目で手間を惜しまない姿は、周囲の人々の心に深く刻まれていたことでしょう。
ご葬儀にあたり、ご家族様からは「稲穂や農作物を飾ってあげたい」というご希望をいただきました。
「もう少しで刈り取りだったのに、本当に残念…」とつぶやかれたご家族の言葉には、作物と向き合い続けた故人様の姿が思い浮かびました。
故人様が大切に育てられたぶどうも飾られ、丸い黄緑色の実が会場に彩りを添えていました。
ご葬儀打ち合わせ時に、私どもからはご家族に次のようにご提案しました。
「お供えはこちらでもご準備できますが、せっかくですので、お父様が育てられたお米でお供えのご飯をお作りになってはいかがでしょうか」
すると娘様とお孫様が、「作らないとお父さんに怒られる」とおっしゃいながら、心を込めて作ってくださいました。
お父様が育てられたお米で丁寧に作られたごはんと手作りのお団子が供えられ、その温かな想いが会場いっぱいに広がっていました。
思い出コーナーには稲穂が飾られ、祭壇には親戚の方々から届いたたくさんのお供え物が並びました。
ボードに飾られた沢山の写真の前では、故人様との日々を懐かしむ声があちこちで聞こえてきました。
その光景は、故人様がどれほど誠実に人と向き合い、そして愛され続けてきたかを物語っていました。
ご家族にとって、故人様は作物と同じように、家族や周囲の人を大切に育み続けた存在でした。
その温かさと実直さは、集まった人々の胸に、稲穂のようにしっかりと実を結んで残っていくことでしょう。
この大切なお見送りのひとときに立ち会えたこと、心より感謝申し上げます。
2025年7月12日 担当:木全