四日市中央斎奉閣
土の香りとかりんとうの甘さ
地域の畑道を自転車で軽やかに走る姿は、近隣の方々にとっておなじみの光景でした。故人様は土を愛し、自然と共に生きることを心から楽しまれていた方でした。お好きだったものは素朴な甘さの「かりんとう」と、餅から手作りされる「あられ」。日々の暮らしの中に小さな喜びを見つけ、大切にされていたお姿が思い浮かびました。
ご家族様にとって故人様は、まさに支えであり、穏やかな笑顔で家庭を包み込んでくれる存在でした。お別れのとき、ご家族様は感謝の気持ちを笑顔で丁寧にお伝えになられ、その想いは会場にあたたかく広がっていきました。
ご葬儀に際し、ご家族様は「葬儀の流れがよく分からない」「ご住職とのやりとりが不安」といったご心配を抱えておられました。私はまず、その一つひとつを丁寧にご説明し、不安を少しでも軽くできるよう努めました。
ご家族様との会話の中で、あられがお好きで、餅から作って焼いたあられを「とても美味しかった」と話されていたことを受け、お好きだったかりんとうと共にお供えとしてご用意させていただきました。実際にご覧になったご家族様は、「本当にありがとうございます」と微笑まれ、お棺にもそのあられを丁寧に納めてくださいました。
祭壇には色とりどりの花々が美しく飾られ、かりんとうやあられが添えられたことで、まるで故人様の日常の一場面が映し出されたかのようでした。会場全体がやわらかな雰囲気に包まれ、ご家族様も静かにその光景を見守っておられました。
お供えだけでなく、祭壇や会場全体も、ご家族様にご納得いただけたようで、担当として安堵の気持ちと共に、大きな喜びを感じました。祭壇に込められた想いが、ご家族様の目にしっかりと届き、故人様らしい温もりのある空間として受け止めていただけたことは、何よりの励みになりました。
葬儀に際して、少しでもご家族様のお力になれたことは、私にとっても忘れがたい経験となりました。お見送りを終えた今、あらためてご家族様と故人様のあたたかなで穏やかなお人柄を心に深く刻んでおります。その柔らかな笑顔や、日々を大切に生きられたご様子を思うと、私自身も胸が温かくなる思いがいたします。
この度のご縁に心より感謝申し上げます。そしてこれからも、悲しみの中にあるご家族様の気持ちに寄り添い、安心して故人様をお見送りいただけるようなお手伝いをしていきたいと、あらためて強く感じました。
2025年9月16日 S家様(担当:中野)