白子斎奉閣
伊勢型紙に想いを込めて 家族での最後の展示会
定年後、関東から地元・三重県鈴鹿市へと戻られた故人様は、趣味で続けてこられた絵画を生かし、新たな趣味として「伊勢型紙」に取り組まれました。その作品は故人様が一枚一枚に想いを込めて制作されたもので、見る人の心に深く残るものでした。
ご家族様にとって、故人様は「沢山のお孫様をすごく愛された方」でもありました。病床に伏してからも、体調が良い日にはお孫様たちとビデオ通話をして交流を大切にされていたといいます。その優しさと家族を思う心は、何よりもご家族様の支えとなっていたことでしょう。
ご葬儀を迎えるにあたり、ご家族様は「お供え物が少ないと、祭壇の周りが寂しくならないか」と不安を口にされていました。そこで私は、会場入り口に故人様の思い出の品々や伊勢型紙の作品を展示するというご予定に合わせ、「展示スペースを広めに設け、祭壇と調和するように作品を配置する」ご提案をさせていただきました。
このご提案に、ご家族様は大変喜ばれ、「祭壇も華やかになる」とおっしゃってくださいました。展示準備の際は、お孫様たちも一緒になって作品の配置にこだわってくださり、故人様への愛情が空間全体にあふれていました。
ご葬儀当日、参列者の皆様からは「展示会のようですね」というお言葉をいただきました。生前、作品をお世話になった方々に見てもらい、作品をお譲りするために展示会を企画されていたという故人様。その夢は、ここで叶えられたのかもしれません。静かな会場の中に、故人様の作品が語る温もりが満ち、ご遺族も参列者も心ひとつにその人生を偲ばれていました。
式を終えたご家族様は、「これほど素敵な葬儀にできるなんて、思っていませんでした」とお話しくださり、こちらこそ胸が熱くなりました。
ご家族様が笑顔で祭壇周りを飾る伊勢型紙を準備されているその姿に、私は心から感動しました。ご葬儀を通して、故人様の想いとご家族様の絆が形となり、この日を通じて深く結ばれたように感じています。
O家の皆様、この度は大切なお別れのお時間を共にさせていただき、本当にありがとうございました。
2025年10月13日 O家様(担当:古川)