四日市中央斎奉閣
家族葬
10冊のスケッチブック
「参列された皆様に、夫の描いた絵を観ていただきたい。」 お打合せの時に、故人様の奥様はそう希望されていました。 当初たくさんの作品の中から一部を展示するご予定でしたが、 すべての作品を拝見し、故人様が余生をどのように生き、どのように感じていたか克明に描かれている作品ばかりで、私は全作品を順番にご覧いただけるよう展示することをご提案させていただきました。 土肥様は東京、岡山、四日市、アメリカなど様々な世界有数のコンビナート地帯でプラント設計者として活躍されていた優秀な方でした。 2014年5月の健康診断の結果、肺に疑いがあり入院。ステージⅣの肺ガンと診断されました。 まだ50代で仕事も充分にこなし、タバコも吸わない方だったのでとてもショックが大きかったことでしょう。 この入院をきっかけにスケッチブックと色鉛筆をベットの傍らに置き、日々の記録と目に映る日常の風景を描くことが始まりました。 「もうこれが最後の旅行となるかもしれない」と、退院後はご自身で旅のプランを計画し、家族旅行や演劇観賞などを満喫し、決して悲観的にならず精力的に活動されている様子が綴られておりました。 スケッチブック一冊を描き尽くしたら、家族が次の一冊をプレゼントし、どんどん増えていき10冊目に突入しました。ステージⅣの肺ガンの方の5年生存率はわずか3%といわれる中で、7年も続いた奇跡でした。 日々上達するデッサンの腕前に反し、9冊目くらいからは体調がすぐれない内容も綴られるようになり、2021年9月が最後の記録となりました。 その後も懸命に治療を続けた土肥様ですが、11月5日に安らかな眠りにつきました。 「最後を知れて良かった」と涙を流されている参列者様の姿を見て、奥様も万感の思いを抱かれていたことかと思います。 懸命に駆け抜けた最後の7年の想いを、形にして披露するお手伝いができ、 今後も全力で遺族様の希望を叶えていきます。 2021年11月7日 土肥様(担当 道内)